わたしたちのきほん

きほんのはなし
番外編

写真:松浦弥太郎
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何かほしいものは

「YAECA」井出恭子(以下、井出) 「くらしのきほん」松浦弥太郎(以下、松浦)

松浦:暮らしの楽しみのひとつに買い物ってあるじゃないですか。

井出:買い物、はい。

松浦:井出さんって、買い物に行かれるのかなって思ったんですよね。

物そのものよりも、出来事のほうが大切

井出:買い物に行こうと思って出かけることって、あんまりないですね。

松浦:ああ、やっぱり。きっとそうだろうなあって、思ってたんですよね。

井出:何気なく行ったところで買うとか。売ってないものを人から譲ってもらうとか。

松浦:忙しいし、第一、あんまり外に出かけないでしょう。

井出:買い物のために出かけるっていうと、食材を買いにスーパーへ出かけたり、とか。

松浦:毎日の消耗品は、買いますよね。たとえば、何かを買いたい気分のときってあるじゃないですか。だからと言って、やみくもに出かけないでしょう。

井出:そうですね。何かを買いたいなあっていう気分はありますね。

松浦:僕も、いつも、何かを買いたいなあって思うんですけれど、どこへ買い物に行ったらいいのか分からないんですよね。だから結局、行けずじまいっていうか。たとえば、カメラとかは、はじめから決まっているから、それだけを求めに買いに行きますけれど。

井出:何かをピンポイントで求めているときは、それへの情熱だけで動いていますよね。

松浦:そう。もう、水を買いに行くようなかんじ(笑)。

井出:水! でも、前よりは、自分のタイミングで、いい買い物が出来るようになりましたね。たとえば、行った先で知り合った方が作っている物だとかを、使ってみよう、買ってみようって。そういう行為は楽しめるようになりました。

松浦:思い出づくりですね。

井出:それにちかいかもしれないです。買いに行くというより、行った先でついてきた、ような。

松浦:物そのものというよりも、その物のあった場所とか、人とのやりとりとか。買う行為にストーリーがあると、嬉しいですよね。インターネットで、クリックひとつで買うことは簡単だし、便利なんだけどね。出来事を大切にするっていうか。

井出:買ったときに気持ちがいいとか。

松浦:あと、どういうふうに使おうかなとか、どこに置こうかな、って考えるのもいいですよね。

井出:そうですね。買うときは、一応買う理由を考えるんです。だけど、欲しかったら、もうむりやりですよね(笑)。

松浦:分かるなあ(笑)。いま、生活で使うもので欲しいもの、探してるものってありますか。

井出:生活で欲しいもの……。

松浦:洋服とかじゃなくて、必需品。便利だなと思える物とか。

井出:うーん。未だに買っていないのは、電子レンジですね。オーブンは、デザインのいいものがあるんですけれど、電子レンジはなかなか素敵なものがないんですよね。あとは電話です。気に入る電話がなくて、とっても困っていて。なんだか家電ばっかりですね。

松浦:たとえば、黒電話とかじゃないでしょう?

井出:そうですね、黒電話ではないんです。

松浦:ファックスの機能がついている電話とか。そうなると……。

井出:デザイン家電とも違うんですよね。

松浦:分かります。なんだか、抵抗ありますよね。あ、ちょっと待ってください。これ、僕の電話です。(と言って、写真を見せる。)

静かな電話がすき

一同:かわいい!!!

松浦:70年代くらいの物です。底にプッシュボタンがついていて。今でも使えるんですよ。

井出:いいですね!

松浦:コードレスではないので、あんまり遠くまで行けないけれど。僕は、電話の呼び出し音が苦手なんですよ。携帯も鳴らないようにしているくらい。で、これは、「カタカタカタカタ」って言うの。

井出:なんですかそれ(笑)。

松浦:ふつうは、ピピピって鳴るでしょう。これは、「カタカタカタカタ」って(笑)。だから、電話がかかってきても、気がつかない。

井出:そもそも聞こえないっていう(笑)。じゃあ、電話に支配されないわけですね。遠くから呼びつけられて走って行ったりとか。焦らされないのはいいですね。

松浦:ひとつ、さしあげますよ。僕は気に入ったものは余分に買っておくんです。

井出:ほんとうですか! うれしい! ありがとうございます。ちなみに、松浦さんは、いま欲しいもの、何かあるんですか?

松浦:ありますよ。いろいろあるんだけど、いちばんって言ったら、家の壁についてるスイッチ類の気の利いたもの。

井出:スイッチ! 分かります。でも、スイッチとか言ったら、リモコンも素敵にしてほしいって思っちゃう。

松浦:もうちょっとね、すてきものがあればなあって思います。あと、これもまあ大掛かりですけど、窓枠ですかね。

井出:窓枠!

もっと自然を感じたい

松浦:もし、魔法を使えるなら、街の景色を変えるために、家々のサッシの窓枠を、一気に木枠に変えたい。

井出:魔法をサッシに使っちゃうんですか(笑)。でも、木枠とかにしたら、歩いているときの気分も変わりますよね。

松浦:風とか音の問題はあると思うけれど……。それを犠牲にしても、僕は窓枠を木枠だったり、鉄にしたほうが、街の景色がよくなると思う。ヨーロッパの古い街とかは、サッシがないから景色が美しいんですよ。

井出:窓辺が素敵なのはいいですよね。雨の日も楽しくなりますしね。家って、何を置いているかの前に、壁と床とサッシが格好良かったら、それでもういいような気がします。

松浦:外からも、中からも、窓辺の景色って重要な気がするんです。なんでもカーテンでしめちゃって、中が見えないっていうのは寂しいですよね。

井出:あ、わたしの家、カーテンつけてないですね。

松浦:いいですね。外を遮断するかんじがあんまり好きじゃないんですよね。外とつながっていたい。

井出:はい。

松浦:話するのを忘れてた。井出さんと、なにか作りたいなと思っていて。

井出:え!

なにか、作りませんか

松浦:YAECAさんと、くらしのきほんで、何か作りませんか。唐突ですけれど(笑)。

井出:え、窓枠ですか(笑)。

松浦:どうしよう、誰が買うんだろう。

井出:壮大な窓枠プロジェクト(笑)。

松浦:いや、そうじゃなくて。トーション!

井出:トーション?

松浦:料理をするひとたちが、エプロンにひっかけるフキンのようなもの。コップや食器、あと、手を拭いたりも出来る……。

井出:ああ!

松浦:自分で気に入ったものを使いたいなあと思っていて。意外とみんな、エプロンで手を拭いたりするんですよ。あと、コップとか、お皿を拭くフキンって、大きめのものがあるといいなあって。

井出:うんうん。

松浦:なんだかすごく適当なことを言うんだけれど、この間、井出さんのところで購入した長袖のカットソー、あの柔らかい生地で……これも言うと怒られそうなんだけれど……。

井出:何ですか?

松浦:この間、そのカットソーを洗濯しようと思ったんです。で、洗面所で顔を洗ったりだとか、身だしなみをととのえていたときに、洗面所が水で濡れてしまって。で、思わず、脱いだカットソーで拭いちゃたんですよ。そうしたら、すごくきれいになったんです(笑)。

井出:ええ! あたらしい使い道(笑)。

松浦:あ、この生地で、食器が拭けるようなフキンがあったら、いいんじゃないかなと思って。

井出:なるほど(笑)。

松浦:あのカットソーはコットンですか。

井出:はい。コットン100%ですね。

松浦:あれで、水回りを拭いたひとって、僕くらいだと思います(笑)。

井出:わたしも聞いたことがなかったです(笑)。あれが水をよく吸うっていうのは、発見かもしれない! 今日試してみなくちゃ! 

松浦:すごいなと思った。ダスターでカットソー素材って見ないし、そんなに毛羽立ちそうにないし。で、洗っても、丈夫じゃないですか。だから、これは井出さんに言わなきゃと思って。

井出:「よく吸うよー!」って(笑)。あ、でも、着古したTシャツを捨てようと思った時、革靴を磨いたことがありました。カットソー素材で靴を磨いたことってなかったんですけれど、さいごに磨き上げをしたら、結構良かったんです。

松浦:ほら、井出さんもやってるじゃない!

井出:やってましたね(笑)。捨てるつもりだったので、切ったりせず、Tシャツのまま使いましたね。で、そのまま靴磨きセットの中に入れて。

松浦:いかがでしょうか。検討していただけませんか?

井出:はい、ぜひ!

松浦:ほんと、一度拭いてみてください。って、すすめるのもおかしな話だけれど。「ワオ!」ってなるから(笑)。

井出:ほんとですか! じゃあ、わざわざ水浸しにして拭いてみるとか(笑)。

松浦:思いっきり、ばしゃばしゃ濡らして、拭いて、「ワオ!」みたいな。こういうところからヒット商品は生まれるんですよ(笑)。

井出:うっかり発見は嬉しいですよね。

松浦:商品名「ワオタオル」とかどうですか。かわいくないですか。「なんでワオタオルって言うんですか?」って聞かれたら、「使ったら、あなたの口から出ますから。」って答える。

井出:いいですね! ちょうどいい塩梅のものって、とんでもない人が作るものなんですね(笑)。

松浦:ほんとそう(笑)。

井出恭子 いで・きょうこ

デザイナー。静岡県生まれ。2002年、アパレルブランド「YAECA」(ヤエカ)の設立に参加。2005年、ウィメンズ部門立ち上げとともにデザインも手掛ける。東京・恵比寿にYAECA直営店、中目黒にYAECA APARTMENT STORE、白金高輪にYAECA HOME STOREがある。着心地のよい、美しい日常着を提案する。

2015年9月1日
写真:松浦弥太郎

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1 件のコメント

こんな短い会話の文章の中に、おはなしがいろいろ入っていてとても楽しいです。会話がかわいくて、ほっこりしてにこにこしてしまいます。ワオタオル♪。名前がキュートですね。すてきをありがとうございます。感謝♪

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