玉子と石の話
「YAECA」井出恭子(以下、井出) 「くらしのきほん」松浦弥太郎(以下、松浦)
松浦:井出さん、以前、丸いものが原点って仰ってましたけれど。
井出:そうですね。わたしが好きなものは玉子ですね。
松浦:玉子(笑)。それは、あの小さい玉子、そのものがお好きなんですか。
井出:玉子そのものも好きだし、玉子の形が好きですね。
松浦:深いですね。玉子って、力が分散されている、あのバランスがすごいですよね。
井出:ついつい集めてしまうんです。玉子の殻とか。
松浦:あ、装飾されたものですか?
井出:いえ、ほんとうに、ただの玉子の殻です(笑)。なんで玉子が好きなのかは分からないんですけれど。
松浦:玉子がいいっていう感覚って、なんなんでしょうね。色も、ピュアな白でいいですよね。触った質感も、マットですし。
井出:そうですね。こう、愛着が湧きやすいフォルムじゃないですか。玉子が並んでいる姿を見ていると、擬人化してしまって、ついつい顔とか書きたくなっちゃう。
松浦:それはいつ頃から意識されたんですか。
井出:昔、アンティーク屋さんで全然違うものを探していたときに、偶然、偽卵を見つけたんですよね。それは陶器で出来ていたんですけれど、釉薬のかかり方がすっごくリアルだったんです。
松浦:うんうん。
井出:ほんとうの玉子みたいで。で、ついつい買ってしまって。帰ってきてから、なんでわたし、偽卵買ってきちゃったんだろう、みたいな。あっ! いま思い出したんですけれど、わたし、高校生の頃、担任の先生に、玉子って呼ばれていたんですよ。
松浦:玉子ちゃんか(笑)。
井出:なんで玉子って呼ばれていたのかは忘れてしまったんですけれど。でも、何かしら、玉子の事件を起こしたとは思うんですけれど。すごく玉子を食べるとか。
松浦:僕は、石が好きですね。子どものころ、両方のポケットに石だらけ。石を拾ってばかりいました。
井出:えー、すごい。石をですか?
松浦:小石ですよ。道に落ちてる小石をいつも拾ってた。「あ、いい石!」とか言って、すぐポケットに入れるから、母親に「また石ばっかり拾って!」って怒られて。捨てられるのが嫌で、瓶に貯めてました。
井出:わたし、今それやってます!
松浦:今ですか(笑)。いい石見つけたー、みたいな。
井出:やってますね。川とかに行くと。
松浦:あー、もう、川とかに行くと、下ばっかり見ちゃいますよね。
井出:なんか、いい形の石とか、いい色の石とか。
松浦:ストライプ柄になっていたりとか。川に行くと、削られて、いろいろな形になってるでしょう。
井出:削られてるから、触り心地もいいんですよね。知人から聞いた話なんですけれど、石の作家さんがいらっしゃって、その方は、お友達の結婚式に行く時に、必ず石を拾って行くんですって。歩いていく道すがら、石をひとつ拾って。で、その石よりもっといい石を見つけたら、そっちに取りかえるんですって。で、それを繰り返していって、その日、いちばんいい石をプレゼントするって。
松浦:いい話だなあ。
井出:今日、一番の石をプレゼントする。なんだか楽しそうですよね。
松浦:子どもの頃って「ありがとう」っていう意思表示が意外と出来ないんですよね。照れくさくて。僕はあなたのことを好きですって、なかなか言葉に出来ないんですよ。
井出:大人になってもなかなか出来ないですよね。
松浦:それで、こっそりその人のかばんの中に、お気に入りの石を入れておいて……。
井出:かばんから石が出てくる! それ、愛情だってことは伝わるんですか(笑)。
松浦:捨てられちゃうかも。
井出:いたずらされたと思われちゃうかも。
松浦:だから、僕は、小学生のころ、自分の気持ちを表すのに石をあげてました。僕の一番大切な石をあげるよって。もちろん、ありがとうも言われない(笑)。
井出:石で想いを伝える……。
松浦:その頃集めていた石って、今でも実家にありますよ。まだとっておいている。宝物だったから。
井出:じゃあ、今度、ひとつください!
松浦:今度ね。特別にあげますよ。照れくさいから、店のどこかに置いておきますよ。ぽんって。
井出:気がつかなかったらどうしよう……。それがまた石っていうのが、ちょうどいいですよね。
松浦:ありがたみがなくてね。
*とりとめのない話は、まだまだ続きます。
井出恭子 いで・きょうこ
デザイナー。静岡県生まれ。2002年、アパレルブランド「YAECA」(ヤエカ)の設立に参加。2005年、ウィメンズ部門立ち上げとともにデザインも手掛ける。東京・恵比寿にYAECA直営店、中目黒にYAECA APARTMENT STORE、白金高輪にYAECA HOME STOREがある。着心地のよい、美しい日常着を提案する。
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