耳をすましましょう

おんがくの
じかん

選曲・写真・文: 池田扶美代
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あらたまって音楽を聞く。音楽に向き合う。音楽に触れる。そういうひとときを暮らしに。

ベルギー在住のダンサー・ 池田扶美代さんは、そんな時、どんな音楽を聞いているのでしょうか。自分と音楽との関係をお便りしていただきます。

2015年11月28日

アルバム:Sting / Songs from the Labyrinth 作曲:John Dowland 歌・演奏:Sting 演奏:Edin Karamazov

このアルバムはどのようにして私のところにやって来たのだろう。誰かからのプレゼントだったと思う。冬だったことも覚えている……。その夜、このアルバムにガツーンと衝撃、圧倒されて、翌日お店に行って、そこにあったこのCDの全て(10枚以上)を購入したことを思い出します。私の人生の中で、ひとつのCDをこんなに購入したのは初めての出来事でした。その年のクリスマスやお正月のプレゼントはこれにしました。出来るだけたくさんの人に聴いてもらいたかったのです。Stingのハスキーな歌声が、この中世に作られた音楽に、セクシーに、メランコリックに、ある時は、清々しくマッチします。ボスニアンのリュート演奏者のKaramazovも素晴らしいパートナーです。

2015年11月21日

作者:Eline Van Coillie アルバム:Junior Jazz

Elineはあの時14歳でした。特技で5回勝ち抜いたら賞品が貰える、というベルギー国内の1分半のTV番組にストレートで勝ち抜いてしまい、彼女の歌声を聴いた国民、専門家達は腰を抜かしました。本人はとてもシャイで、TVカメラの前では歌ったけれど、本当は人前で話せないほどでした。彼女の歌のナンバーは全てジャズです。それらを集めたアルバムが『Junior Jazz』。彼女はそのあと音楽の専門学校に進み、2枚目のアルバムは実名で『Here It Come』を17歳の時に出しています。ジャンルがジャズという事もあり、芸能界に引っ張られなかったのと、とにかく恥ずかしがり屋さんでした。丁度2枚目のアルバムが出る前に、ブリュッセル市民の家を借りてのサロンイベントがあり、歌や朗読、絵の展示などがあり、彼女が歌うというので聴きに行きました。本当に普通の家のリビングに電子ピアノとギターを置いただけの空間、お客さんは目と鼻の先です。Elineは「あ〜ちょっと恥ずかしいなぁ……」と言って、題名をボソボソ言ったあとに部屋の隅に行ってしまい、何と! 私たちに背中を見せたまま1曲目を歌い出したのです。それでも背中を見せながら部屋の隅で歌う『My Favourite Things』と『Uptown Top Rankin』は圧巻でした。私はこのアルバム『Junior Jazz』の中にある『I Will Say Goodbye』を自分のソロの最後のパートで使わせて貰いました。大学を卒業したらしいし、いつかまた彼女の歌声を聴きたいものです。

2015年11月14日

作者:Chet Baker アルバム:The Best of Chet Baker Sings

Chet Beker の歌声を家で聴くのが好きです。私の記憶の中に“Chet Baker・家・まったり”が出来上がっているのかもしれません。時間をかけて料理をしたい時も良し、お客様をお迎えする時も良し、一人でコーヒーやワインを飲んでいる時も良し。時間を大切にしたい時にChet Bakerが歌ってくれていると安心出来るという、パブロフの条件反応が素敵に身体記憶に残っているのでしょう。次に何の曲が来るのか覚えているくらい聴き混んだこのアルバムやこのアルバムの中の1曲が、外出時にたまたま聞こえて来ると何とも不思議な気分にさせられます。自分のプライベートな空間や習慣が私の許可なしに勝手に外出している気分にさせられちゃいます。初めて彼の歌声を聴いた時は彼の気だるそうなノスタルジックな歌い方に驚いたものです。その頃はうるさいロックの最盛期でしたから。

2015年11月7日

作者:Nirvana アルバム:MTV Unplugged: Nirvana Unplugged in New York 曲:Where Did You Sleep Last Night?

大好きな人と音楽の話をしていて彼がKurt Cobainのファンと知る。私はNirvanaのCDは1枚しか持っていませんでした。思い切ってその中のお気に入りの1曲を言ってみる。(感激! 同じ曲がお気に入りだった)そんな思い出の1曲です。この Nirvana『Unplugged in New York』は、その名の通りアコースティック演奏でKurt Cobainの歌とギター演奏がピュアに伝わる名盤だと思います。『Where Did You Sleep Last Night?』は、もともとアメリカ民謡で、Lead Bellyなどの歌声が有名です。カヴァーは何人かが歌っていますが、Kurt Cobainバージョンは切なくて大好きです。1990年にCobainの出身地シアトルを初めて訪れた頃は、本当に素敵な古着屋さんが多い町でした。当時は、ファーストファッションなんてまだなかったし、私の予算で買えるものは古着だけでした。今ではダメージ加工のジーンズがとんでもない値段で売られていて、古着までも高くなり元祖グランジー世代は呆れていることでしょう。

2015年10月31日

作者:Wolfgang Amadeus Mozart アルバム名:Mozart Melodies& Lieder 歌手:Barbara Hendricks ピアノ:Maria-Joao Pires

オペラ全幕って中々聴く機会がないというか、観に行く機会が訪れにくいというか、少し残念な分野になりつつあります。オペラ全幕の中から何を手に取ったら良いのか分からない場合は、オペラ名曲集のアリアやリーダーから聴き始めるのがお勧めです。あるいは歌姫を選んでという手もあります。マリア・カラス、モンセラート(モンセラ)・カバリエなどの名曲アリア集から聴き始めるのもお勧めです。私のお気に入りは黒人の歌姫、バーバラ・ヘンドリックスのモーツァルトのメロディーとリーダーです。彼女が90年代初期にどんどん有名になっていく時に買った、このアルバムは私の日曜日の朝の定番となりました。 鈴のように澄んだ声の中に、とても力強い意志と深い思いを感じ、リラックスすると共にとても元気が出るアルバムです。

2015年10月24日

作者:Nena 曲:99 Luftballons

1983年はローザスが結成した年です。その当時はワンボックスカーに私たち女の子4人と照明の人をいれて5人でツアーに出かけていました。音楽をガンガン鳴らしながら西欧を縦断したものです。その年のヒット曲は全て車の中で聞いたと思います。この曲もそういうツアー中にガンガン、ラジオから流れてきたパンチのある曲でした。ドイツ語のわかるアンヌテレサに意味を教えてもらったら(当時は冷戦のさなか)、反戦、反核兵器、反原発を歌った社会性のある曲ということがわかりました。生まれて初めてデモに参加したのもこの年でした。核兵器反対デモに参加した日、集合場所のブリュッセル北駅広場(今はビルが建ち、その広場はないです)で、この曲がやっぱり誰かのテープレコーダーから、ガンガン鳴っていました。そしてこの歌がヒットしてから6年後に『ベルリンの壁』が崩壊しました……。

2015年10月17日

作者:Jahann Sebastian Bach 曲:Die Kunst der Fuge BWV 1080/19

Die Kunst der Fuge ( The Art of Fugue ) は、 日本ではフーガの技法という名のバッハの晩年の作品です。私はこのフーガの技法の最後の19番を踊ったことがあります。この19番は未完成作品です。視力や体力の落ちていたバッハにはこの作品を完成させることが出来なかったようです。3つの主題によるフーガで構成されていて、基本主題はなく3つのパートに分かれています。3番目の主題はBACHの名前が音列(シb−ラ-ド- シ)として使われたことが有名です。この3つの主題が初めて結合された辺りで音が途切れます。急にポツリと消えるので、この逸話を知らない人はとても驚きます。ポツリと弾くのをやめる奏者はどんな思いを持ち、手を鍵盤から離すのでしょうか。この10分前後の未完成作品を踊る時、自分の記憶がどんどん消えていく……そんな儚い気持ちにさせられた作品でもあります。チェンバロやオルガンバージョンも良いですが、ピアノバージョンで聴くのが私は好きです。

2015年10月10日

タイトル:Stan Getz Plays 作者:Stan Getz Quintet

80年代のブリュッセルの下町にBloomdiduというジャス・カフェがあり、私は初めてそこでジャズの洗礼を受けました。聞いたこともない音楽の聴き方を教えてくれたのは、ここのマスターだったアンドレという人です。なんでもLP/CDのジャズ・コレクションをベルギーで一番多く持っているという噂でした。毎週コンサートがあり、有名なジャズミュージシャンも演奏をしに来ていました。日付が変わり、お客さんも静かになって来た頃、フリージャズ系から、クール・ジャズにしてくれました。このGetzのアルバムも初めてこのお店で聴き、そしてこれは自分で買った初めてのジャズCDになりました。

2015年10月3日

タイトル:Suite No4 / Sarabande in D minor HVW437 演奏:Irina Mejoueva 作曲:Georg Frederich Händel

この有名なヘンデルのサラバンドのピアノバージョンを作品の中で使いたく、沢山のピアニストの中から、このMejouevaが弾いているバージョンを選びました。鍵盤へのタッチはドライなのですが、彼女の解釈は深く力強いです。AパートとBパートの質感の違い、繰り返される同じテーマの微妙な変化と冷静さが好きです。

2015年9月26日

タイトル:Lullaby 作者:Newton Faulkner

彼の最初のアルバムにあったこのララバイ。とても好きです。短い曲なのでリピートにして眠りにつきたい。彼のコンサートでは歌ってくれなかったな。アンコールで〆の曲には良いかもしれないのにな。

Close your eyes

Get some sleep

It's too late now

To change anything

But it's alright

Get some sleep

It's so dark outside

So close your eyes

And feel the world turn round

If you're not lost

I guess that makes you found

2015年9月19日

タイトル:Just As You Are 作者 : Robert Wyatt

このデュエット曲はラジオから流れてきました。 女性がYael Naïm、そして相棒の男性が我らベルギーのロックスターArno。 Arnoのことは改めていつかお話しするとして、Arnoの独特な歌い方とYaelの淡々とした歌い方が素敵でした。 このヴァージョンは、Robert Wyattのオマージュのためにフランス国立ジャズオーケストラが企画したことをラジオの説明で知りました。 そして、オリジナルのRobert Wyattのヴァージョンも聞いてみました。彼の奥さんのAlfreda Benge の作詞です。 奥さんのAlfreda Bengeは画家でもあり、沢山の作詞をRobert Wyattに提供しています。 別れ話が出ている二人の思いを表した曲ですが、奥さんが作詞をしたと思うと微笑ましくもあります。 『愛とは受け入れ、許すことである』そんな気分にさせてくれます。 1番と2番は歌えるようになったので、3番と4番を歌ってくれる人いないかしら。募集中です。

I've never tried to change a thing

Never tried to change a thing about you

(Always loved you)

Just as you are

2015年9月12日

アルバム:Ballads 作者:John Coltrane

このコルトレーンのバラードは、友達のサクソフォニストからの誕生日プレゼントです。「扶美代が生まれた年にリリースされたアルバムで、コルトレーンはそれに扶美代と同じ誕生日なんだよ。」「僕はこういう演奏も出来るコルトレーンがとても好き。」良く聴くアルバムですが9月は特別な響きになります。

2015年9月5日

曲名:Fire 作者:The Pointer Sisters

歌詞を暗記するということも下手くそな私です。この曲は練習したので何とか歌えるようになりました。すでに色々と思い出の深い曲なのですが、ローザスが企画したコンサートで、バンドとコーラス付きという贅沢な条件で 歌っちゃいました。この曲が聞こえて来ると、聴くのではなくもう絶対に一緒に歌っちゃいます。

Late at night, you're takin' me home You say you wanna stay, I say I wanna be alone I say I don't love you, but you know I'm a liar 'Cause when we kiss, ooh, fire

2015年8月29日

曲名:Sonatina from Actus Tragicus, BWV 106: Gottes Zeit Ist Die Allerbeste Zeit 作者:Johann Sebastian Bach 演奏:György Kurtág & Márta Kurtág

ジェルジュ・クルターグ、マールタ・クルターグ夫妻による、このクルターグ氏編曲連弾版のバッハはとても美しいです。私が聴いたのは二人とも85歳以上の時の演奏録音で、ほのぼのとした音質と共に目頭が熱くなりました。この曲を教えてくれたVincentありがとう。最近彼に会っていないけど元気なのかしら。

2015年8月22日

曲名:Hallelujah 作者:Susanna and the Magical Orchestra

Leonard CohenのHallelujahはたくさん人が素晴らしいカヴァーを出していますね。みなさんはどのバージョンがお好きですか。Joan BaezやWillie Nelsonも素敵だけど、Jeff Buckleyのバージョンは圧巻です。娘の世代では映画Sherkの中に出てくる素敵な歌というイメージらしいです。美味しいワインを頂きながら聴く、もう一つお勧めのHallelujahがあります。このアルバムMelody Mountainは全てカヴァー曲集で、彼女の解釈が素敵です。

2015年8月15日

曲名:The Unanswered Question 作者:Charles Ives

この曲で踊ったのは「in pieces」という私のソロ作品の中です。題名の通り、質問と答えが交互に聴こえてくるストラクチャーです。生演奏で聴いた事はないのですが、トランペットが観客席側、カルテットは舞台袖、木管楽器はステージ上という、コミュニケーションが取りにくい設定だそうです。トランペットの質問に対して答える木管楽器、それらの行間を生かしたカルテット。この曲は些細なサイレンスが素敵です。

2015年8月8日

アルバム:Stan Getz Meet Joao and Astrud Gilberto New York 1964 作者: Stan Getz - Joao and Astrud Gilberto

暑いです。暑い時はこのアルバムです。彼らのボサノバが心地よいです。 どの曲がお勧めというより、このアルバム全体の流れが、いつも新鮮な気分にさせてくれます。 娘もこのアルバムが大好きで、赤ちゃんの頃からこれを聴くと機嫌が良かったです。

2015年8月1日

曲名:Requiem, Op. 48: Pie Jesu (1893 version) 作者:La Chapelle Royale, Philippe Herreweghe & Ensemble Musique Oblique

わたしの暮らすベルギーには「radiko」という親切なシステムはないから、 素敵な歌声が聞こえてきたら、 ペンを持って曲名が聞こえてくるのをじっと待ったり、 曲の始めだったら、 インターネットからラジオ局にアクセスして題名や歌手を探します。 ソプラノ歌手のAgnès Mellonも素晴らしい歌声で、 朝から清々しい気持ちにさせて貰えました。

2015年11月28日
選曲・写真・文: 池田扶美代

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