成田理俊の鍛造

うつくしい
フライパン

文・写真:松浦弥太郎 動画:片山育美
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青い壁の小屋が、畑の真ん中にぽつんと建っている。「丸一年かけて、すべて自分の手で建てました」鍛造(たんぞう)作家の成田理俊さんはそう言って照れた。工房の中は、鉄を焼いたり、曲げたり、叩いたりする様々な道具とそのスペースが、使いやすく誂えたキッチンのように調和されていた。

成田さんの作業机。工房で一番明るい場所

たったひとりで

ここはたったひとりで鉄と向き合う場所。テレビもパソコンもない。絵の一枚すら飾られていない簡素な小屋。「注文に間に合わなくなると、寝泊まりしながら作るんです」。あるのは火と鉄、道具と土間だけのここで、どうやって寝泊まりするのだろう。「ひたすら鉄を焼いて、叩いてるんです」。夏は火の熱で40度を越し、冬は毛布で体を巻いて、石油ストーブを抱きながら作業をすると言う成田さん。「とにかくひとりですから」。そう言いながら、数年待ちとも言われるフライパン作りに成田さんはいそしんだ。

仕上げ前のフライパンが並ぶ

理想のフライパン

「毎日使うものですから、軽いこと、持ちやすいこと、使いやすいこと、料理が楽しく思えること、そして、フライパン自体がお皿であること、そこに置いてみて、美しいと思えること、そんなことばかり、ずっと考えています」。頭にタオルを巻いて、丸く切った鉄の板を、コークスで丹念に焼く成田さん。手作業による鍛造は時間との戦いだという。真っ赤に焼かれた鉄は待ってはくれない。

コークスといういのち

「まず、丸く切断した鉄の板を、コークスで焼いて表面に表情を作ることから始まります」。成田さんのフライパンの魅力は、抽象画を思わせる表面のテクスチャーにある。「今時、鍛造というローテクな仕事をする人は稀でしょうね。だけど、僕にとってはコークスの火がすべて。コークスがいのちなんです」。石炭を蒸し焼きにした燃料のコークスは、火を入れると1000度以上にまで熱温度が上昇する。炎を上げるコークスの中に入れた丸い鉄の板が、ペンキを塗ったように真っ赤になり、それを大きな鉄のハンマーで叩いてかたちを作っていく。熱が下がると、またコークスの中に入れて焼き、また叩く。これを繰り返していくうちに、平らな板だった鉄が、丸いボウル状の皿になっていく。

工房の入り口にて。成田理俊さん

美しく思えること

「どこで手を止めるのかは感覚ですね。叩きながら、もう大丈夫、と思う瞬間があるんですよ」。大きさは一緒であっても、フライパンにはひとつひとつ違った表情がある。見て、触って、使ってみる。すると、「そこに置いてみて、美しいと思えること」という成田さんの言葉がよみがえる。

成田さんの鉄のフライパンは、軽くて、薄くて、強い。かたちが良い。たたずまいが潔い。鉄のフライパンの常識を覆している。ひとつひとつ手作りしているから、それができるのだろう。

オムレツを焼く。すると誰もが料理を好きになる。毎日何かを作りたくなる。そんな魔法にかかってしまうフライパンなのだ。

問い合わせ先:夏椿

群馬県利根郡みなかみ町にある成田さんの工房
2015年7月27日
文・写真:松浦弥太郎 動画:片山育美

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