素材から住みたい場所の話
「YAECA」井出恭子(以下、井出) 「くらしのきほん」松浦弥太郎(以下、松浦)
松浦:井出さん、素材は何がお好きですか。たとえば、木とか……。鉄が好きだという方もいらっしゃいますよね。鉄のテーブルとか。土っぽいものとか。僕は、木は嫌いじゃないですけれど、じゃあ、丸太小屋に住みますかって聞かれたら、ちょっと考えますね。ここ「YAECA HOME STORE」は、天井が木で、壁は漆喰じゃないですか。全てが木というよりは、こういう風に組み合わせているものが好きなんです。
井出:わたしも、組み合わせが好きですね。確かに、木は大好きだけど、でも、なんだか、そこに鉄が入っているからいい、というような。全てが木で出来た丸太小屋の中に、木のテーブルと木の椅子が置いてあるというのは……ちょっと違う。木も好きだけれど、ガラスも好き、みたいな。素朴なものも好きだけれど、素朴なだけって難しい。それをどう捉えるかは、その日によって、だいぶ変わってきます。なんというか……、洗練もされていてほしい。触り心地も、丸みがあったりだとか、ずんぐりしているとか。そういうものは、エッジの効いた場所に置きたいんです。そういった組み合わせが好きなんだと思います。
松浦:いろいろな制約がなくて、好きなところに住んでいいですよと言われたら、どういう所に住みたいですか。
井出:究極(笑)。究極すぎて、一晩考えないと難しいかも……。どこだろう……。
松浦:高層マンションのようなところの一室なのか。山の中の、それこそ、丸太小屋みたいなところなのか。湖のほとりにある、別荘のような場所なのか。
井出:高台にある平屋がいいですね。
松浦:それは、街じゃなくて、田舎ですか。自然の中とか。
井出:わたし、欲張りなので、街も欲しいんですよね。さらに究極を言ったら、二軒ほしい(笑)。でも、街中だとしても、高台の一軒家に住みたいです。高層よりは低い家。でも、たぶん、それもバランスの問題ですよね。緑はもちろん好き。でも、街も好き。その混在している感じが好きなので、山にこもりますかと言われても、違う感じがしますね。
松浦:アメリカとヨーロッパだったら、どちらが好きですか。
井出:ここで扱っている家具は、全てフランス製なんです。フランスでも、50年代くらいのもので、特別な人に向けて作られたものじゃなくて、一般の人に向けてデザインされ始めた頃のものです。職人さんたちも、誇りを持って作っている。ヨーロッパのものって、機能的なんだけれど、ちょっと色気があって、すごく好きだなと思っていて。サイズ感もちょうどいいんですよね。わたし、フランスのものとか、ヨーロッパのものはすごく好きなんですけれど。だけど、住むんだったら、アメリカかなって思います。
松浦:僕も住むならアメリカかな、って思いますね。フランスとかイギリスとか、ヨーロッパには憧れがあるんですけれど、自分がそこに所属出来るのかって考えると、なかなかイメージが出来ない。いつまでも、中に入っていけない気がして、よそ者感がある。
井出:それ、なんだか分かる気がします。ヨーロッパは、住む場所じゃなくて、行く場所って感じがする。
松浦:あと、僕が住みたいところは、アッパーウエストサイドのダコタハウス(笑)。
井出:えっ!?
松浦:ニューヨークの。
井出:えっ! すごい具体的(笑)。
松浦:ニューヨークのセントラルパークのすぐ隣にあるダコタハウス。ドイツ装飾で、石の重厚な土台があって、10階の高さでね。で、中に入ると、床は木で、漆喰があって、天井は4メートル以上あって、窓の大きい、昔ながらのアパートなんです。窓から外を見ると、セントラルパークの緑がばーーっと見えて。昔、知り合いでそこに住んでいる人がいて、一回だけ遊びに行ったことがあるの。
井出:入ったことがあるんですね……!
松浦:入ったときは、ここかあ! と思いましたね。
井出:それは、もはや、空室待ちもチャレンジですね(笑)。
松浦:いわゆるニューヨークの、昔ながらの雰囲気、あの感じが好き。街の風景とのバランスとか、素材の合わさり方、環境も含めて。中には噴水があってね。東京には、なかなかああいう場所ってないですよね。いつかの夢ですよ。
井出:わたしも古いマンションが好きなんですけれど、マンション自体、なかなかないですよね。海外みたいにずっと建っているような、すごく重厚で、100年建っているようなマンションって、なかなかないですよね。憧れです。
松浦:それなら、やっぱりダコタハウスがいいですよ。どっちが先に住めるか競争しましょうよ。
井出:(笑)。
*まだまだ話は続きます。
井出恭子 いで・きょうこ
デザイナー。静岡県生まれ。2002年、アパレルブランド「YAECA」(ヤエカ)の設立に参加。2005年、ウィメンズ部門立ち上げとともにデザインも手掛ける。東京・恵比寿にYAECA直営店、中目黒にYAECA APARTMENT STORE、白金高輪にYAECA HOME STOREがある。着心地のよい、美しい日常着を提案する。
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日本にうまれて日本に住んでいて、住みたいところが日本以外の外国だという感覚が不思議です。そして、お二人ともが同じだというところが、もっと不思議で運命的なものを感じます。