夜のよみもの。朝になったら消えます。

泣きたくなった
あなたへ  26

文・写真:松浦弥太郎 
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こんばんは。お元気でしょうか。とてもごぶさたしてしまいました。

なんて言ったらよいかわかりませんが、しばらく心の中を開けてお話することが出来ませんでした。けれども、少しずつですが落ち着いてきました。大変ご心配おかけしました。またゆっくりと歩きはじめます。

増田れい子さんの「独りの珈琲」(鎌倉書房)というエッセイ集を読みました。普段いろいろと本は読んでいますが、この本は出会ってよかったと思える特別な一冊でした。ジャーナリストの増田れい子さんは、長年「暮しの手帖」で連載をされていました。

タイトルになっている「独りの珈琲」は、作家の田宮虎彦さんの晩年の暮らしを綴ったもので、どういうわけか、読後いつまでも僕の心の中に残り、しかも、何度も何度も読みたくなるエッセイです。

田宮さんは、奥様を病気で早く亡くされ、二人のお子さんが巣立った後は、独り暮らしをされていました。そんな日々の中で、毎朝、田宮さんは独りで珈琲を淹れるのです。おいしくできる時もあればそうでない時もあるといいます。そして、毎朝マンションの11階の部屋の窓から、朝日で染まる都会の景色を眺めながら、独りで珈琲をすするのです。

珈琲を飲み終えたら、コーンフレークスと果物を独りで食べます。そして、執筆の仕事をし、昼ごはんはしっかりとる。

そんな独り暮らしをしながら、週に3日ほど仕事のお手伝いをしてくれる女性が来て、昼ごはんを一緒に食べてくれるそうです。

田宮さんはこんなふうにおっしゃいます。「うれしいのは、テーブルに一緒についてもらえることですね。食事というのは独りで食べたらおいしくない。独りだとどうしてもからだを養うだけのビジネスになってしまう。楽しさが抜け落ちてしまうのです」と。

お手伝いの女性が来ない日の昼ごはんは独りで外食する。ときには若い人の集まるハンバーガー屋にも行く。

「しかし何が良かったといって、家族がそろっていたときの食事が一番でした。そろっているということがごちそうだった」と田宮さんはおっしゃる。

田宮さんの夜ごはんは、ヨーグルトに果物をひとつ。それだけです。これはドイツ式食事だそうです。そうは言っても、ヨーグルトと果物だけの夜ごはんを独りで食べる姿を想像したら、涙が一粒二粒落ちるのです。なぜだろう。亡くなった父を思ったり、もしかしたらいつかの自分を思うのかもしれません。こんな心境に僕は戸惑うのです。

田宮さんは、甘酸っぱいヨーグルトを食べながら「今日もいちにちが過ぎて行った」と思い、時には海が見たくなる。海にはおいしいものがたくさんあるからです。

「年をとって独りになると、おいしいものが残されたなぐさめです」。田宮さんのこんな言葉でエッセイは終わります。

読むたびに、僕は暮らしと仕事の尊さを思い知るのです。暮らしのありがたさ、仕事のありがたさを、すべてのありがたさを。

反省することはたくさんある。これまでいろいろありました。

だから、できるかぎり、今日もていねいに。。。ひとつひとつ。

とりとめのない感想文になってしまいました。ずっと更新せずごめんなさい。またお話をします。読んでくれてありがとう。おやすみなさい。

「もう一言」 みなさんから投稿していただく「わたしのきほん」にずっと励まされています。ほんとうにありがとうございます。あなたの「きほん」は、きっと僕だけでなく、たくさんの方の日々をはげまし、助け、ちからになっていると思います。心から感謝しています。

*「泣きたくなったあなたへ」は不定期に更新しています。

2017年4月6日
文・写真:松浦弥太郎 

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53 件のコメント

「独りの珈琲」は、何度も読み返して、いくつかの好きな章はページの端を折り返しています。
一番好きなのは「川ぞいの町にて」。
読むたびに鼻の奥がツンとして、涙が滲みます。
今の私が何を感じるのか、もう一度読みたいと思います。

増田れい子さんの「独りの珈琲」は数十年前に読み、大好きな本です。増田さんの本はほぼ全部持っていますが、また読み返したくなりました。
私もひとり暮らしです。これから夜の独りの珈琲を愉しみますね。ん?大丈夫です、いつでもどこでも眠れるので!

田宮さんの言葉が、とても今の私にしみてきました。
「家族で食卓を囲むことがご馳走です。」
素晴らしい表現です。
今日から、一人暮らしになりました。
でも、何だか気持ちが落ち着きました。松浦さん、ありがとうございました。

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