夜のよみもの。朝になったら消えます。

泣きたくなった
あなたへ 21

文・写真:松浦弥太郎 
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ただいま、な気分です。 少し遠くに出かけていたような。 でもこうして、また話ができるのがうれしいです。 ほんとうに僕のこころは遠くに出かけていましたから。

にこにこしながら隣に座ります。 何から話そうかな。横に座って、少しぼんやりしてから話しますね。

まずは、毎日たくさんの「わたしのきほん」が集まっていることが、 ほんとうにうれしくて、みなさんに「ありがとう」をお伝えします。 思いついた時でいいので、こつこつと自分のために書いておく。 あとで書きなおしても、消してもいい。とりあえず書くことが大事なんです。 そうすると、その言葉が自分の心のどこかに薄く刻まれて、 なんだろう、見たり、聞いたり、感じたり、思ったりする自分の感性の証というか、 前を向いた時に、自分が自分であることを確かめる手がかりになるのです。 書こうと思って、書けなくても、 たった一分であっても、書こうと思ったことは小さな一歩になります。 こころの中にあるものを書いてみる。大事です、とても。

ふと思うこと。それは「自分に戻る」ということ。 自分らしい、ひとりの自分に戻るということ。いや、自分に戻りたい。 何が好きで、何が苦手で、なにが嬉しくて、何が悲しくて、何が楽しいとか。 そういうものを取り戻すというか。

僕らは日々、いろいろな物事に影響を受けながら仕事や暮らしを営んでいます。 いろいろと気遣いし、いろいろと自分を変えて、 たくさんの我慢をして、いろいろな自分になって、 なんとかバランスをとったり、なんとかうまく生きていこうとしています。 でもそうすることで、自分が自分でなくなるというか、気持ちとしては、 いつも迷子になっているような感覚を覚えたりします。僕は。 あれ、今の自分って、なんだろう? と。 流されたり、染まったり、もしくは、固くなったりと。

先日、中野区江原町にある「東京こども図書館」に行きました。 なんてすてきな場所かと思いました。 たくさんの絵本とたくさんの本が棚いっぱいに詰まっていて、 その中で子どもたちが読み聞かせをしてもらっている様子を見たとき、 あ、ここは自分がもっとも自分らしくいられる場所、 それこそほんとの自分はここにいるんだと思いました。 エルマーのぼうけんの地図をじっと見ていた自分を思い出しました。

こんなことはじめて書くけれど、 僕は絵本が好きで、童話が好きで、昔話が大好きです。 そういう少し世の中から離れたような世界というか、 心の中を旅するような、非現実といわれるような、 だけど、何もかも信じられて、好きとか嫌いのない、 大人にはなれない子どものままの自分のような。不完全な。 そういう雰囲気の中に自分がいると安心するのです。 気持ちがぽかぽかと暖かくなるのです。

かんたんに言ってしまえば、 大人になりたくない子どもというのが、 一番自分らしい姿かもしれないなあと思ったのです。それが正直な気持ち。 少なくとも、子どもたちが集まる「東京子ども図書館」にいると、 自分らしさが何かを思い出したような気持ちになったのです。

だからといって、 そこに逃避するようなことはありません。 そこに行けば、「自分に戻る」ことができるとわかっただけのこと。 でもよかったんです。自分が自分に戻るという体験ができたことが、 しばらく僕はずっと迷子のような気持ちで落ち着かなかったのですから。

こういう心境というか、自分の状態って、 もしかしたら少し心のバランスを壊しているのかもしれませんが、 まあ、でも僕自身そんなに強くないのはわかっているし、 なんとなくですが、大人っぽい正しさとか強さ、賢さとかって、 そうすることで自分からどんどん遠ざかってしまうこともありますね。

みなさんはどうでしょう。 自分が自分であることって、なかなか難しいです。 そんなことをぼんやり考えた週末でした。 大人だってたまに迷子になります。それでいいのです。

子どもの自分を大切にすること。 子どもの自分を思い出すこと。 そこに「自分に戻る」何か気づきがあるんじゃないかな。

大人であるけれど、 子どもであることも忘れない。それでいいと思う。

ずっとあなたのお便り読んでいます。 いつもほんとうにありがとう。嬉しいです。 「くらしのきほん」を支えてくれて心から感謝しています。

なかなか更新できずごめんなさい。 しばらく心が閉じてしまっていました。

また隣に座らせてください。また話をさせてください。 今度は歩きながら話しましょうか。 そういう友でいさせてください。

*「泣きたくなったあなたへ」は不定期に更新しています。

2016年4月10日
文・写真:松浦弥太郎 

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16 件のコメント

共感です。読んでいてこちらまで自分に戻れたようです!友達も作らず本の世界に住んでいた幼少期。松谷みよこ、カニグズバーグ、寺村輝男・・・現在は海外在住ですがいつかこの図書館を訪ねて全て読み返してみたいなぁ!エッセンスって変わらないものですね。

ほんとうの自分、自分の手ざわり、自分のこころの手ざわりを
なんとかして大切にしたいと思う今日この頃です。

ほんとうに隣に居るように、
ああそうか、わたしはずっと、この想いのことを話したかったのか、と。
ずっと溜め込んでいた想いをふと、ひとに話した途端、涙する感覚を、思いました。
誰かに、誰かと、話したい。ありがとう。

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