くらしのきほんブックガイド3

家事は
うつくしい

文・写真:松浦弥太郎 
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道元の『典座教訓・赴粥飯法』 

日本に、歯磨きや洗顔、食事の作法や、掃除の心がけを説いたのが、道元であることは意外にも知られていない。

道元の『典座教訓・赴粥飯法』は、禅の修行道場における、食を司る典座という職務の大切さと、料理を食す者の心得を記した一冊だ。現代社会を生きる私たちが磨くべき暮らしの大切な作法と心得の教科書ともいえよう。

『典座教訓・赴粥飯法』道元/著 講談社学術文庫 定価本体900円(税別)

中国の禅寺で修行を学んだきた道元は、修行の基本として、まず身なりを清潔にすることを教えている。それまで日本では、修行僧の身なりの汚さはそれこそ、いかに自分が苦行を行ってきたかの証であった。しかし道元はそれを覆した。

口臭を防ぐために楊枝を使った歯磨き。水を使って清める身体と洗顔。爪を長く伸ばすことは教えを背くともいい聞かせ、長髪などはとんでもないと叱咤した。しかも、大便小便の仕方までも教えている。いかにそれまでの日本の禅寺の作法が無いに等しかったのかがよくわかる。くわえて、礼儀作法、挨拶の仕方には多くの文章を割いている。

毎日の家事こそ、最も尊い行い

圧巻は「典座」という言葉だ。

仏道の真理は、教典や禅寺にあるのではなく、掃除洗濯、料理や雑用といった毎日の家事の中に存在すると道元は言う。その職務を「典座」と呼び、「汚れた食器は他人の目を磨くようにていねいに洗う」と教え、仏教の悟りを開くための厳しい修行、それはすなわち、特殊な苦行の中にはなく、私たちが毎日を暮らす家の台所や庭、便所の掃除、居間で行う普遍的な仕事と所作の中に存在すると説いた。そんな当たり前のことを、当たり前に身につけ、学ぶことが、暮らしそのものであることを、この本から学ぶことができる。

典座すなわち家事。日々の家事は、私たちの暮らしにおいて、もっとも美しく尊い行為であると確信できた。

道元の『典座教訓・赴粥飯法』は、夏休みにおすすめしたい一冊です。   

2015年8月17日
文・写真:松浦弥太郎 

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1 件のコメント

訳文の部分だけ読みました。食材を眼のように大切に。親が子を思うような心で水や穀物を扱う。驚きの連続です。老年の典座の方が人に任せず自ら働くお話も好きでした。漢文のところは音読すると楽しいと感じました。ありがとうございました。感謝。

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