いつどんな時でも、なにがあろうとも、この本だけは無くさないように、すぐに手が届くところに置いておきたい。目に見える場所にあってもらいたい。そんなお守りのような本がある。児童精神科医、佐々木正美さんの『子どもへのまなざし』だ。
最初は育児のためにページを開いた。そのくらいに育児に悩んでいた。どうしたらよいのか。どう考えたらよいのか。そんなふうに、何もわからない日々がつらかった。自分には育児ができないんじゃないかとさえ思った。
そんな時、ふと本屋で見つけた『子どもへのまなざし』だった。表紙は『ぐりとぐら』で知られる山脇百合子さんのイラスト。あの懐かしい絵のタッチに安心感を感じた。
ぱらぱらっとページを開いた。「お母さんへ、お父さんへ」というタイトルがあった。読むと、その時の自分のために書かれたような言葉があった。こうしなければいけない。こう考えなければいけない、という教えはどこにも書かれてなく、育児とは、自分と向き合い、子どもと向き合うこと。それによって自分も、子どもに学ばされ、子どもに育てられる。育児とは、子どもと共に、親も成長するための日々である、とあった。
「幼少期に自分が望んだように育てられれば育てられるほど、人を信じることができるようになる」。佐々木正美さんの言葉だ。
育児とは、してはいけないことを教えるのではなく、したいことを存分に与えてあげること。求める気持ちをたっぷり満たしてあげること。よって、子どもの望みを何でも聞いてあげることが、子どもの依頼心を強くするという。
決して子どもをわがままにするのではなく、常に信頼できる人がそこにいるという安心こそが、子どもの成長に最も必要だという考えには、目からウロコが落ちた。とはいうものの、それが過干渉や、親の押し付けにならないようにという注意にも膝を打った。
そして、育児に最も大切なことは、子どもの自尊心を傷つけないこと。自尊心を傷つけられ、自己肯定感を失ってしまったら、子どもに限らず人は誰でも、希望をもってがんばって生きていくことができなくなる。また、思いやりのある子に育ってほしければ、親の自分が子どもを十分に思いやればいい。子どもは自分が思いやられて育ったあとで初めて、他人を思いやることができる人になる。「思いやりは身近な人とともに育つ」と、佐々木さんは言う。
「育児に失敗があるとしたら、その多くはいそぎすぎによるものだと思います。そのつぎが手ぬきでしょう。ですから、いそがず手をぬかずに心がける、これが育児のコツですね」。これを読んだとき、我に返ったような気持ちになった。育児だけでなく、暮らしにも仕事にも共通すると思ったからだ。
しつけとは何か。しつけとは、くりかえし教えること、そして、待つこと。
育児を終えた今、『子どもへのまなざし』は、いつしか自分のために読んでいる。大人という、大きな子どもが、この厳しい社会を、人とどんなふうに生きていくべきかのヒントが詰まっているからだ。『続』と『完』と、本書の、三冊シリーズ。
この本に手を置くと気持ちがおだやかになる。
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本当に、産まれてくる前に読めてよかった。。。
育児は育自、そうこの本は教えてくれます。
間違っていても責められること無く、気づいた時からやり直せばいいんだよ、そんな風に一緒に歩いてくれる本だと思います。
私も今読んでいます。10ヶ月の息子と一緒なので、途切れ途切れにしか読めませんが、この本を読むと心が落ち着きます。以前は泣き止まないとイライラしたりすることもありましたが、育児の奥深さを少しずつ自分なりに理解し考えられるようになりました。