「根ぎし 笹乃雪」の胡麻豆富

くいしんぼう2

文・写真:松浦弥太郎 
文字サイズ

生のごまを一晩水につけてふやかし、ザルにあげて、新しい水につけるを繰り返す。すり鉢で円を描きながら、ごまをすっていく。ひたすらすっていく。すっていくと、はじめの耳に心地良い静かで低い音だったのが、ごまが歌をうたっているかのような甲高い音に変わる瞬間がある。

これは、ごま豆腐を作るために、祖母が丹念にごまをするのを真横で見ていた記憶の断片だ。一緒に、その時のごほうびとも言える、ごまの香りが鮮明に蘇ってくる。

ごま豆腐をいただく時は、必ず手を合わせたくなる。そのくらいに、ごま豆腐は作る人のまごころがこめられている。ごま豆腐を作る祖母の姿は、料理とは何かというその答えを、そんなふうにして僕に考えさせるのだ。

「根ぎし 笹乃雪」のごま豆富は、祖母の作ったごま豆腐に味が近くて、実においしい。豆腐ではなく豆富と書く「根ぎし 笹乃雪」は、江戸時代にはじめて絹ごし豆富を作った老舗である。当時、あんかけ豆富が庶民のブームになり、おかわりして器を高く積み上げるのが江戸っ子の自慢だったという。正岡子規が愛した豆富料理店としても知られている。

「根ぎし 笹乃雪」の折り詰め(1000円)を買って帰り、包装紙を開け、フタを取ると翡翠色したごま豆富があらわれる。気に入りの器にていねいに盛りつける。器は少し大きめがよいだろう。今日は柚子みそで食べようか。わさびをのせて、しょう油で食べようか。それとも、何もつけずにそのまま食べようか。一口食べると、こんなにおいしいものがこの世界にあるのかと思う。そのくらいおいしい。ばちがあたりそうで恐ろしくもある。今日もくいしんぼう。

「根ぎし 笹乃雪」 東京都台東区根岸2丁目15−10 電話03−3873−1145

きなこと黒みつをかければデザートにも。
2015年10月31日
文・写真:松浦弥太郎 

コメントを書く

あなたのコメントをみなさんとシェアしませんか。
2 件のコメント

ごまが歌をうたっているかのように…なるのですね。聴いてみたいです。手を合わせたくなる味。こんなにおいしいものが世界にあるのかって思う味。想像しただけで感動します。教えてくださってありがとうございます。感謝。

今日は…わさび気分…
明日は…黒蜜で…

ゼイタク…

この記事にお便りを送る

ご意見、ご感想などお聞かせください

カテゴリー

「えらぶ」のその他の記事

683570ece69a85d4307d8b3580d9ad94fe4c14849bc90c1e0d500b8d6a751377

素材の味を 生かす

料理で一番大切なのは塩加減と、塩の選び方であると、多くの料理人がいいます。
F6bc0de3e4f44ea206d373f629172f539e6f02fbcc23180f69aaeeadf7367320

トントントン どんな音?

まな板は料理に欠かせない道具のひとつ。みなさまはどんなまな板をお使いでしょうか。
B23dfc0f3715d1ebdf84116162395d4a2f10977839a097b8d65d392d2f066da6

水のかわりに

夏の太陽をたっぷり浴びた「トマト」。ジュースでおいしくいただきます。

新着記事

29cd0d9824947c1d0271d1e55a494df750a82c781fbf2ffc63cfe849a6c1455e

あの旅の おいしさを

ロメインレタスを使ったシーザーサラダ。試作を重ねてたどり着いた、絶品ドレッシングを紹介します。
F13a2ecf7dd953fe47ff016de3df46d67c05e72b2f5ca4df05ad3f6996d39acb

ぷりぷりな エビチリ

エビのていねいな下ごしらえがおいしさのコツ。ぷりぷりでピリ辛なエビチリはいかがでしょうか。

人気記事

週間
月間
すべて
▲TOPへ