くらしのきほんブックガイド6

目に
みえないもの

文・写真:松浦弥太郎
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日曜日に『モモ』を読むのが習慣になっている。そのくらいに僕はこの一冊が好きだ。「モモ」は、ベッドサイドのいちばんよい場所に置いてある。

なぜ「モモ」を読むのだろうか。それは、大人になるにつれ、消えゆくような気がする、自分の中に残る唯一の美しさといおうか。もっとも大切にしたい心の奥にひっそりとあり続けるけがれなき無垢な心。そんなまばゆいひかりを確かめたいのかもしれない。「モモ」がそのひかりの在り処へ自分を導いてくれるからだ。

『モモ-時間どろぼうと盗まれた時間を人間にとりかえしてくれた女の子のふしぎな物語』ミヒャエル・エンデ作 大島かおり訳 定価本体1,836円(税別)

もじゃもじゃ頭の不思議な少女モモ。話を聞くだけで、人の心を溶かし、悩みを解消させる力を持った彼女のまわりには、いつもたくさんの大人や子どもたちが集まった。しかし「時間」を人間に倹約させることにより、世界中の余分な「時間」を独占しようとする灰色の男たちにより、町じゅうの人々はゆとりのある生活を次第に失っていく。モモはどのようにして、奪われた「時間」を取り戻し、町の人を救うのか。モモの言葉はひとつひとつが知恵となって読む者の心に刺さる。

「〜人間はじぶんの時間をどうするかは、じぶんじしんできめなくてはいけないからだよ。だから時間をぬすまれないように守ることだって、じぶんでやらなくてはいけない。〜(中略)」

エンデはこの物語で「時間」とは何かを私たちに問いている。「時間」は目には見えない。これからの時代は、こういった目に見えないものを、いかに目に見えるものとして、大切にできるのかが、未来を左右するのではなかろうか。「時間」とは何か。シンプルであるけれどとても深い問いかけである。

大人になった今でも、ときおり僕の心の中にモモは現れる。そして「わたしの言葉をまだ信じてる?」と問いかける。僕はモモと対話をする。こんなふうにモモは、読んだ人の心に知らぬ間に住み着くのだ。

2015年10月17日
文・写真:松浦弥太郎

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6 件のコメント

じぶんのじかんをどう生きるかは自分自身が決めること。だから、盗まれないように守るのも自分でやらなくてはならない。ひらがなが多くて、やさしいかんたんな言葉で綴られていますが、意識を深く研ぎ澄まされます。モモとの出会いは人生の宝物です。

「時間」とは何ですか?時間とは…って何時間も何日もずっとお話し続けられますね。きっと。モモみたいにちからが抜けていて、そばにいると落ち着く存在は憧れですね。

ふと、モモのことを思い出していたので、今日の投稿はシンクロニシティを感じました。20代から親しんでいるモモ。リアルな社会では、ただ話を聞いているわけにはいかないほど複雑で、モモでいることは難しい、私もまた読もう。今日も幸せに🍀

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