くらしのきほんブックガイド5

知られざる
日本人

文・写真:松浦弥太郎
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外国を旅すると、異文化に関わることで、自分自身のアイデンティティだけでなく、私たち日本人の原点は何かと喚起される。日本人とは一体何者なのか、と漠然とした疑問が湧いてくる。

旅と言えば、江戸から明治にかけての「富山の薬売り」がいる。歩いていくしか手段がない、僻地の山村こそが、薬売りの顧客であり、旅先である。ひとつの集落に辿り着くために、7日も歩き続けるのは日常のことで、そんな山深い土地だからこそ、薬売りは庶民から重宝された。

テレビもラジオも新聞も無い時代、日本全国を旅してあらゆる見聞をしている薬売りは、ひとつのメディアだった。庶民は薬売りを歓待し、外の世界に何があるのかを貪るように聞いたという。薬売りもまた、その土地ならではの情報を収集し、また別の土地に行った際に、その情報を口伝した。

民俗学者の宮本常一は、自己が責任編集をした『あるく・みる・きく』という旅雑誌の取材において、まさに「富山の薬売り」を手本にし、過酷な旅をしながら、各地の民俗風習を採取した。その土地で話を聞く代わりに、自分の知っている世間話をすることで喜ばれ、庶民は重い口を開いた。タブーとされた歴史の真実も。 

「海辺の窮民」「山民の盗賊」「飢えの記録」「老人と子ども」「嫁と姑」「はたらく女たち」「遊女」など。

平凡社ライブラリー『日本残酷物語』宮本常一 他・監修 定価本体1,359円(税別)

『日本残酷物語〈1〉貧しき人々のむれ』は、宮本常一ら民俗学者が、足を使って旅をし、普段決して庶民が他言をしない、日本人の隠され続けた歴史的事実、生活習慣、風習を、全国津々浦々から採取したルポルタージュだ。

薬売りの話を聞くように、僕はこの一冊を読む。かつての日本の庶民の暮らしは、どれもが凄まじく、悲しく、美しい。

『日本残酷物語〈1〉』というタイトルに、誰もが一瞬ひるむだろうが、事実は小説より奇なりである。日本人のありふれた暮らしとは何かの答えが、この民俗学における歴史的名著に記されている。

宮本常一著『忘れられた日本人』(岩波文庫)も合わせて読みたい。

2015年10月3日
文・写真:松浦弥太郎

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